神戸地方裁判所 昭和24年(行)63号 判決
原告 日本製鉄株式会社
被告 兵庫県農地委員会・姫路市廣畑地区農地委員会
一、主 文
被告姫路市廣畑地区農地委員会が昭和二十四年五月二日公告した別紙目録記載の土地に対する農地買收計画を取消す。
被告兵庫縣農地委員会が、前記計画に関し原告の提起した訴願について昭和二十四年七月一日付でした裁決を取消す。
訴訟費用は被告等の連帶負担とする。
二、請求の趣旨
主文同旨。
三、事 実
原告は、その請求原因として、被告姫路市廣畑地区農地委員会は、原告所有の別紙目録記載の土地を自作農創設特別措置法により買收する計画を立て、昭和二十四年五月二日公告したので、原告はこれを違法として同月十日、同委員会に異議を申立たか、同月二十五日却下されたので、さらに同年六月一日被告兵庫縣農地委員会に訴願したが、同年七月一日同被告はこれを棄却するとの裁決をし、その裁決書は同年八月一日原告に送達された。
然し、右買收計画は、次の諸点において違法である。
一、本件買收地は、区画整理施行中のものであり、右買計画はその換地予定地か農地であるとの理由で農地として買收することとしたようであるが、自作農創設特別措置法は現況を基準として買收計画を定めるべきものとしており、このように將來の状況によつて買收計画を定めるのは違法である。
二、しかも、右換地予定地中には、現在建物敷地、道路敷地、河川敷地、堤防敷地、水路敷地等農地でない土地があるのに、これをもすべて農地として買收することとした違法がある。
三、右のように農地予定地を買收の対照としていながら、その計画には換地元地の地番でこれを表示しているが、このような表示方法はどの土地が買收対象となつたのか、その同一性を認識できないこととなり違法である。
四、換地予定地を買收の対象としていながら、その買收対價は換地元地の賃貸價格を基礎として定めているのは、買收目的物の賃貸價格を基準とすることとしている規定に反し違法である。
五、本件土地は、原告会社廣畑製鉄所を中心とする都市区画整理区域内に含まれているのであり、都市区画整理事業の性質上当然將來宅地化されるべきものであるのに、その事業区域内から排除もせぬままに、これを農地として買收するような計画は違法である。
六、被告姫路市廣畑地区農地委員は、本來、本件土地を農地として買收する意思なく、自作農創設特別措置法第五條第五号による買收除外指定をする意思であつたのを、被告兵庫縣農地委員会の反対指示により本件買收計画をたてたのであつて、その眞意によらぬ行爲であり、原告としてもその眞意でないことはよく承知していたのであるから、このような眞意によらないで定めた買收計画は当然無効か、そうでないとしても少くとも取消し得べき違法なものである。
右のように多くの欠点ある本件買收計画はもとより違法で取消されるべきであるし、從つてこの計画を適法なものとして、原告の訴願を棄却した被告兵庫縣農地委員会の裁決もまた違法なものであるから、その取消を求めるわけであると述べた(立証省略)
被告姫路市廣畑地区農地委員会は、「原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とする」との判決を求め、
答弁として、同被告か原告主張通りの買收計画を定めたことは認めるが、元來同被告は、本件土地を買收する意思なく、原告から申請された通り、本件土地は自作農創設特別措置法第五條第五号により買收から除外すべきものと決議したのだが、兵庫縣農地委員会から右除外指定は承認できないとの指示を受けたので、やむなくこれを買收する計画をたてたのであり、しかも右のように被告廣畑地区農地委員会が本件農地を買收する意思のないことは、原告もよく知つているのに、同被告を相手に本件取消を求めるのは、誤りであると述べた。
被告兵庫縣農地委員会は、「原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とする」との判決を求め、
答弁として、原告主張の土地につきその主張通りの買收計画が定められ、原告主張の通り異議、訴願の申立があり、被告が昭和二十四年七月一日その訴願を棄却する裁決をし、その被決書が同年八月一日原告に送達されたことは認めるが、原告は右訴願においてただ本件買收土地のうちには、農地でない部分があると申立てただけで具体的にどの部分が非農地であるが明示しなかつたのであるから、被告がその訴願を理由なしとして棄却したのは当然な処置である。
また本件買收計画自体も、後に述べる一部分を除いては適法なものである。すなわち、本件買收地として表示されている地番の地土は、現在土地区画整理地域に含まれ、換地処分実行中なのであつて右買收計画において買收されるべきものと定められたのは、右地番の土地が將來換地されるべき土地なのである。ただその表示を便宜上元地の地番で現したにすぎない。しかし、それも右地番の土地の換地か、どの土地となるかは既に明かになつており原告としてもそれはよく知つているのだし、表示地番の土地を耕作している小作農は換地処分が決定すれば、当然右換地につき耕作権を取得することになるのであるから、表示の元地の地番でしても、原告のいうように買收地の同一性を認識できないものではない。
そして右買收地(すなわち換地予定地)が計画樹立当時一部原告のような非農地部分を含んでいたことは、認めるか、これも換地処分や、土地区画整理事業が完了すれば、すべて農地となるべきものとの見込の下に買收計画を立てたのであるから非農地を買收することとはならない。もつともその中の一部すなわち、字沖河原、字沖西河原、字上柳の各字名を冠した地番で表示された土地は現在としては換地後、工場敷地、学校敷地となることが明であるのでその部分は、被告の主張からしても、非農地を買收することとなるから、その買收計画が現在違法であることは認める。
また、本件買收計画における対價が換地元地の賃貸價格を基準として算出決定されていることは認めるか、右土地について行われている土地整理は單なる区画整理で、農地としての利用價値増進のためのものではないのであるから、換地後も賃貸價格にも変動を來たすことはないと考えられ、從つて、旧地のそれを基準として対價を決定しても違法とはいえない。
以上の理由により、原告の本訴請求は失当といわねばならないと述べた。(立証省略)
四、理 由
被告姫路市廣畑地区農地委員会が、原告所有の別紙目録記載の土地を農地として自作農創設特別措置法により買收する計画を昭和二十四年五月二日公告したことは、原告がその主張通り異議の申立をなしたが同委員会がこれを却下し、更に原告がそれに対し被告兵庫縣農地委員会に訴願の申立をなし、同委員会が同年七月一日原告の右訴願を棄却する裁決をし、同年八月一日この裁決書が原告に送達されたことは被告兵庫縣農地委員会の認めるところであり、被告姫路廣畑地区農地委員会の明かに爭はないところであるから自白したものと認められる。
被告兵庫縣農地委員会は、原告その訴願において、右買收地には非農地が含まれていると主張しながら、その非農地がどの部分であるか明示していなかつたのであるから、これを棄却した裁決は適法であると主張するが、そのいうところが、原告の訴願の理由が不明確であるとの理由でこれを却下したというのであるならば、それは結局原告提出の訴願書が方式を欠いた場合なのであるから、同被告としては、この場合訴願法第九條第二項により右訴願書を補正のため期限を指定して原告に還付すべきであつたのに、この手続を経ないで直に原告の訴願却下の裁決をしたことはすでにそれだけで違法な処分といわねばならないのであるが、同被告としては、右のように原告の訴願を理由を備えないものと却下したのでなく、むしろ一應適式な訴願として受理した上、原告主張の理由からは、本件收計画を取消す原因なく、右買收計画は適法なものであるとして、原告の訴願を棄却したものと解されるので、右裁決が適法であるかどうかは、結局本件買收計画が適法であるかどうかにかかつて來るわけであるから、この点について判断する。
本件買收計画に買收土地として記されている地番の土地は都市計画事業による土地区画整理区域に含まれ、その換地予定地が指定されているので、本件買收地は一應旧地番で表示されているが実は右換地予定地が本件買收計画における買收地なのであり、また、この買收されるべき換地予定地中には、現状農地でないものをも含まれているが、区画整理事業が完了すれば、すべて農地となるべきものであるとの理由でこれを原告の所有に属する農地として本件買收計画が定められたものであることは、被告兵庫縣農地委員会の自ら認めるところであり、被告姫路市廣畑地区農地委員会としても、本件弁論の全趣旨から見て、同じく爭わないところを認められる。
然し、このように、將來の事実、状態に基いて買收計画を定めることは、原則として違法なのであり、買收計画は原則としてその樹立時現在の事実、状態に基いて定められねばならないものであることは、自作農創設特別措置法の諸規定を通覧すれば自ら明かであるというべく、特にこの原則によらず、將來の事実を考慮し、或は過去の事実に基いて買收計画を立てるか否かを定めることができるのは、同法第三條第五項第五号第五條第四、五、六号或は、同法第六條の二の如く、特に法が明定した場合でなければ許されないものと解すべきである。
そうすれば、右のように將來の事実に基いて定められた本件買收計画は、すべてこれを許容すべき法の根拠がなく違法なものといわざるを得ない。すなわち、本件買收土地を適法に買收しようとするならば、右地域の土地が換地処分により、原告の所有地と確定し、その状況が農地となつた時において、初めてその事実に基いて買收計画を定めるべきなのであり、そうでなけば右地番の現在地の農地となつている部分を確定して、その部分を買收の対象として計画を定めるか、いずれかの処置をとるべきものであると考えられる。
なお、被告姫路市廣畑地区農地委員会は、同委員会としては、本件土地を買收する意思なく、ただ兵庫縣農地委員会の指示によりやむなく本件買收計画をたてたのであり、このことは原告もよく知つているに、同被告に対してその取消を求めるのは失当であるというか、いやしくも同被告が本件買收計画を樹立し、しかも自ら進んでこれを取消されない以上、そしてまた前記のようにその買收計画が違法な以上、たとえ、被告等の内部関係において本件買收計画樹立につき同被告主張のような経緯があつたとしても外部者たる原告からその取消を求められるのは当然であつて右のような理由で原告の本訴請求を排斥することはできない。
そうすれば、本件買收計画及び前記裁決の取消を求める原告の本訴請求は、他の爭点を判断するまでもなく正当なものであるというべきであるから、これを認容し、訴訟費用の負担については民事訴訟法第八十九條、第九十三條第一項但書前段を適用して、主文の通り判決する。
(裁判官 石井末一 西川正世 細見友四郎)
(目録省略)